Chiezaru’s diary

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人ひとりの生命の意味、人生の意味・・小拍停歩雑考


【 雲平線薄暮 】 - 夜の帳の下りるシベリア上空 - Olympus PEN E-PM2 + M.ZUIKO DIGITAL 17mm F2.8

先週はさまざまな意味で人の一生について考える機会を与えられた一週間だった。
母方の祖母の逝去を知らされてたのが先々週の週末。
週明け火曜日にお通夜、翌日に告別式だということだった。

葬儀には出席したかったので取急ぎ一時帰国のエアチケットを探して予約、月曜日にローマを経って翌朝成田に着いた足で親戚の集まる東京の伯父の家に直行して、通夜そして告別式に出席することができた。
享年九十八歳、あと二週間ほどで白寿に届くほどの長寿だったこともあり、一番自分の身近なところで次女に当たる母、そして伯父、伯母、叔母、孫、ひ孫と直系の子孫だけでも十数人、祖母自身のきょうだい、それぞれの配偶者、近い親戚まで数えると身内だけでちょっとした人数が集まった。

天寿を全うして逝った形だったこともあり、人々は時折、故人を憶い起こして涙ぐむことはあっても、悲壮感漂うことなく見送った。
不謹慎な言い方になるかもしれないけれど、故人の人柄の偲ばれるよいお葬式だった。立ち会うことができて孫として正しいことが出来たと思っている。

祖母は非常に頭のよい人で、高校生だった自分に受験数学を教えてくれるほどだった。(結局自分は数学嫌いで入試に数学の無い私大の日本文学化に入ったわけだが・・。)
あの時で既に70代だったことを考えると、今でも当時の感嘆とともにおばあちゃんはすごい人だったなぁという想いがよみがえってくる。

母は次女ということもあって、祖母と同居することは無かったものの、時折訪ねてきてくれて、自分と弟が子供のころはいつもお土産に組み立て付録つきの『小学X年生』などの本を持ってきてくれたのを覚えている。今回お葬式の段になって、そんなことを思い出して、遅ればせながら、ああ、こうして孫達の教育のことも考えてくれてのことだったんだな・・と思い至った。

自分の記憶に残っているおばあちゃんは柔和でどちらかというとあまり大きく感情を表に出す人ではなく、ともすると何事からも一歩引いているという印象すら受けることもあったが、自己顕示欲を感じさせない人柄には逆に大人なのだだという認識とともに敬意を持つことが出来た。

今でもそれは自分の中で変わっていない。

仕事の関係などではなく、亡くなってこれだけの人を集めることができるというのは祖母の人としての力によるものといえるかと思う。

最後にもう一度ここに、おばあちゃん、ありがとうございました。と繰り返しておきたい。
編んでいただいたセーターは式場では着ていませんでしたがその前後、近い親戚が集まったときに身につけさせていただきました。


【 モスクワ有雪 】 - シェレメーチエヴォ国際空港 - Olympus PEN E-PM2 + M.ZUIKO DIGITAL 17mm F2.8

そして。

木曜日の夜にローマにもどり、翌金曜日に出勤一日仕事をして、その翌日。
今つけている祖母の葬式について日記を書いてしまおうと思いつつ朝職場に着いて、夜勤明けのレセプションのスタッフに今夜は全てOKだった?と聞くともなく質問したところ、いや、悪いニュースがある、と。
また酔っ払った客が何かしたのかと思って、また何か起こったの?軽い調子で問い返したら、もう一軒のほうの夜勤をするはずだったA君が死んだと答える。

まったく想定外な返答だったので、は?。どういうこと??と聞き返しながら少しずつ判ったのは、遠くに住んでいて電車で通勤してくるA君は夜勤にくるために乗る電車に乗り遅れそうだった為に駅で地下の連絡通路を使わずに線路の上を横断したらしい(イタリアの鉄道駅はプラットホームが低いので禁止されていても横切る人が後を絶たない)それもヘッドホンをして彼女と電話をしながら、ということだった。

その後ネットで調べてみたら地方紙のオンライン版に詳細が載っていた。聞いた話と読んだ記事を統合すると、禁じられた線路横断、ヘッドホンで自ら聴覚を塞いだ上に携帯通話による注意散漫。そこに注意を払っていたのとは逆方向からインターシティーの通過電車が走り抜けた・・。
話にはありそうで実際には起きることはないだろうというような信じられない死に方だった。

死者に鞭打つ気はないけれど、あまりにも意味のない死。両親は泣くに泣けないだろう。

黙ってしばし思考を停止したくなった。

一週間のうちに身近にあった二つの死がその意味がにおいてあまりにも両極端であったことに少なく混乱している。

思わぬタイトスケジュールをこなした疲れが出たのか、週末には風邪の症状で関節と筋肉があちこちに痛みが出て体の芯のほうからゾクゾクする寒気にみまわれた。なんとか一日の仕事を終えて帰宅してから、その夕方から日曜日のほぼ丸一日、ひとのすべき生き方とはなんなのだろうとベッドの上で考えていた。

無論到底結論には辿り着かず。

ともあれ週明けには回復し、いまでは日常に戻っている。


【 成田降雨 】 - 成田国際空港 - Olympus PEN E-PM2 + M.ZUIKO DIGITAL 17mm F2.8

追記:A君の不名誉の一つを回復するために記しておきたい。
ついさっき知ったこと。亡くなったA君の家族にお悔やみを述べに行ったスタッフが聞いてきた事実は新聞に載っていたそれとはすこし違っていた。
プラットホーム上にいて彼女と通話していたA君は自分の乗る電車が来るのをチェックしようとしてホームから身を乗り出したらしい。
そこに反対方向から走ってきた通過電車と接触した。
真相では少なくともA君が線路を横断しようとした事実は無いということだ。


【 垂滴窓 】 - 成田国際空港 - Olympus PEN E-PM2 + M.ZUIKO DIGITAL 17mm F2.8

善く生きるということ。そして人はひとりで生きていないということ。