Chiezaru’s diary

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『もし僕らのことばがウィスキーであったなら』にならって



【 ブリュイックラディ・ロックス 】
Olympus PEN E-PM1 + Panasonic lumix 20mm f1.7

二十歳の頃から村上春樹ファンで大体の作品は読んでいる。
どうしても続かなかったのは『アンダー・グランド』のみ。あれだけはどういうわけか途中で読む気が完全に失せてしまった。今だに一番好きなのは『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』。

彼の作品を読んでいるとビールが飲みたくなったりウィスキーが飲みたくなったり良質なパンに新鮮な野菜を挟んでよく切れる包丁でカットしたサンドウィッチが食べたくなったりする。そういう反応の多いことを作家本人がどこかで書いていた。
自分も例に漏れずそのクチ。

翌日に残ると嫌なので最近はあまり強いアルコールは飲まな傾向なのだけど、寝しなの読書にはワインは今ひとつ合わないしビールもいけない。
ワインは複数(でも少数)の気心の触れた人々と、いろいろ食べものを組み合わせて、これはいける、こっちはちょっとなどと歓談しながら飲むのがいい。一人静かにというのはちょっと違う(イタリア的飲み物だ)。ビールはビーチで読書ならいいけど、冬の夜にベッドの上でというのはイメージするだけでも寒々しいし、現実、そのあと夜中に用を足しに行かなければならなくなるのでやはり駄目。

そうなると個人的に一番好きなのは良く寝かされた良質の、それもできれば琥珀色のグラッパで、このあたりをちびちびやりながら本を読んでいるとちょっとした幸福感がある。
が、前述の理由で基本的に家にスピリッツ系の酒は置かないようにしている。(ついつい飲みすぎるクセがある・・難。)

そんな自分にちゃんとシングル・モルトのそれもアイラ島産のウィスキーを買わせてしまうのだから村上作品の影響力はすごい。きっと自分だけではないだろうなと思う。

さてこのウィスキー、ブリュイックラディという醸造所で作っていてプロデュースが、『もし僕らのことば・・』に出てくるジム・マッキュエン氏らしい。ボトルケースに署名がある。(同一人物ならこのエッセイが書かれたときとは違う醸造所に移っているか、両社で兼任しているのだろう)。

もちろん試飲?も。
シングル・モルトのウィスキーはやはり尖がっている。
ブレンドのまろやかさはなく、ストレートで口に含むとピリッとしていて攻撃的。
太陽の絵を描く時に、真ん中の円がまずあって、それにスパイキーなフレアの部分を描き足してような。尖がりの頂点のいくつかがかなり中心から離れたところに打たれて、際立っている。シングル・モルトはその数点の尖がり部分が非常に鋭い。そんな感じ。

しばらく舌の上で回していると口の中の温度と自分の唾液でまろやかに香りが口腔を満たす。
このロックスというボトルはフルーティーな傾向。
ただし、個人的にはこれをストレートで飲み続けるのはちょっと無理。
強すぎて、こめかみの裏の神経を刺激する不快感がある。

なので5分の3をウィスキー5分の2を常温のミネラルウォーターで。
こうするとだいぶ角がとれて、まろやかになる、と同時にほのかな甘みとフルーティーさが出てくる。
これをウィスキーグラスで一晩に一杯だけゆっくりと楽しむのはオツな習慣だと思ったりした。村上氏はどこでこの文章を書いたのだろう。ローマにいる一読者にここまでさせるとはたいしたものだ。(こういう乗せられ方なら大歓迎だけど。)ウィスキー的福音の書?聖書的ウィスキーについて書かれた本?というところか。最初の一杯は彼のために軽く掲げた。

自分で演出する大人の時間。